処遇改善加算Q&A第1版で確認したい、障がい福祉事業所の大事なポイント

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■処遇改善加算Q&A第1版で確認したい、障がい福祉事業所の大事なポイント

こんにちは。障がい福祉サービス事業の支援を専門にしている行政書士の浅井順です。
今回は、令和8年4月9日に示された「福祉・介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第1版)」について、障がい福祉サービス事業所の経営者の方に向けて、実務上特に大事だと思う点をまとめてみました。

https://www.city.nara.lg.jp/uploaded/attachment/209523.pdf

処遇改善加算は、単に「職員に加算分を配ればよい」という制度ではありません。
誰に配れるのか、どの賃金に含めてよいのか、最低賃金との関係をどう見るのか、役員は対象になるのか、実績報告で不足した場合どうなるのかなど、経営判断に直結する論点が多くあります。
特に今回のQ&Aでは、これまで現場で迷いやすかった部分について、かなり実務的な回答がされています。

1. 役員でも、現場業務をしていれば対象になり得る
今回、私が特に大事だと感じたのは、代表取締役等の役員についての取扱いです。
Q&Aでは、代表取締役等の役員であっても、その障がい福祉サービス等事業所において、実際にサービス提供等の業務を行っていると判断できる場合には、処遇改善加算による賃金改善の対象に含めることができるとされています。
これは小規模事業所にとって非常に大きな意味があります。
たとえば、計画相談支援事業所で、代表者自身が相談支援専門員としてサービス等利用計画を作成している場合があります。法人の代表者ではあるけれど、実態としては現場の専門職でもある、というケースです。
このような場合に、「役員だから一律に対象外」と考える必要はありません。
ただし、ここで重要なのは「役員であること」ではなく、「加算対象となるサービス等事業所の業務を実際に行っているか」です。単に法人経営だけをしている、事業所の業務に従事していない、という場合まで対象になるわけではありません。
私の実務感覚では、ここは記録が重要です。
勤務実態、担当業務、サービス提供記録、相談支援業務の実施状況などから、「この人は役員であると同時に、事業所の職員として業務をしている」と説明できる状態にしておく必要があります。

2. 対象者の範囲はかなり広いが、何でも自由ではない
今回のQ&Aでは、処遇改善加算の配分対象について、福祉・介護職員以外の全職種も含まれるとされています。
具体的には、管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、相談支援専門員、看護職員、リハビリ職、就労支援員、職業指導員、生活支援員、世話人、保育士、事務員など、幅広い職種が想定されています。
これは経営者にとっては非常に使いやすい考え方です。
現場は、直接支援員だけで回っているわけではありません。
サービス管理責任者が個別支援計画を作り、事務員が請求や記録を支え、管理者が人員配置や利用者対応を行い、場合によっては本部職員が事業所運営を支援しています。
その意味で、処遇改善を「支援員だけのもの」と狭く考えすぎると、かえって組織運営上のバランスを崩すことがあります。
一方で、注意点もあります。
職務内容や勤務実態に見合わない、著しく偏った配分は避ける必要があります。たとえば、一部の職員だけに極端に集中させる、同一法人内の一部事業所だけに合理性なく集中させる、といった運用は危険です。
大事なのは、「柔軟に配分できる」と「自由に好きなように配れる」は違う、ということです。

3. 法人本部職員も対象になり得るが、対象事業所との関係が必要
法人本部の人事、総務、事業部職員などについても、処遇改善加算の対象となるサービス等事業所における業務を行っていると判断できる場合には、賃金改善の対象に含めることができるとされています。
ここも実務上は大事です。
複数事業所を運営している法人では、本部職員が採用、研修、請求、加算管理、虐待防止、BCP、感染症対応、書類整備などを支えていることがあります。これらは事業所運営に不可欠な業務です。
ただし、処遇改善加算を算定していない事業所、加算対象外サービスの事業所、障がい福祉サービス等以外の事業所の職員については、処遇改善加算を原資とする賃金改善の対象にはできません。
つまり、本部職員に配分する場合は、どの事業所のどの業務に関わっているのか、説明できることが重要です。
「本部だから対象外」ではありません。
しかし、「本部だから何でも対象」でもありません。
ここは、勤務実態、業務分担表、法人内の職務内容、按分の考え方を整理しておくべき部分です。

4. 最低賃金との関係は、私は慎重に見るべきだと考えます
今回のQ&Aでは、最低賃金を満たしているかを計算する際、処遇改善加算による加算額が、臨時に支払われる賃金や賞与等ではなく、予定し得る通常の賃金として毎月支払われている場合には、最低賃金額と比較する賃金に含めることになるとされています。
ここだけ読むと、「処遇改善手当を毎月払っていれば最低賃金の計算に入れてよい」と見えます。
しかし、私はここをかなり慎重に見ています。
Q&Aでも、処遇改善加算の目的を踏まえ、最低賃金を満たした上で賃金の引上げを行うことが望ましいとされています。
処遇改善加算は、本来、福祉・介護職員等の処遇を改善するためのものです。
最低賃金を満たすための穴埋めとして使う発想が強くなりすぎると、「加算があるから最低賃金をクリアできている」という状態になります。
この状態は、経営上かなり危ういです。
最低賃金は今後も上がる可能性があります。もし基本給や通常の時給が低いままで、処遇改善手当に頼って最低賃金を満たしていると、次の最低賃金改定時に一気に余裕がなくなります。
私としては、最低賃金はできる限り基本給・時給本体でクリアし、その上に処遇改善加算を乗せる設計が望ましいと考えます。
もちろん、資金繰りや報酬単価の問題もありますので、理想論だけでは運営できません。
ただ、経営者としては「最低賃金対策」と「処遇改善加算の配分」を同じものとして考えすぎない方がよいです。

5. 年収460万円以上の職員も、賃金改善の対象にできる
今回のQ&Aでは、処遇改善加算による賃金改善前の賃金が年額460万円以上である職員であっても、賃金改善の対象に含めることができるとされています。
これも重要な変更点です。
以前の特定処遇改善加算の感覚が残っていると、「年収が高い職員には配れないのではないか」と考えてしまうことがあります。しかし、令和8年度以降の取扱いでは、年額460万円以上の職員も対象に含めることができます。
これは、経験・技能のある職員を法人に定着させるうえで重要です。
障がい福祉の現場では、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、相談支援専門員、管理者クラスの人材確保が非常に難しくなっています。一定以上の賃金水準にある職員であっても、その職員をさらに評価し、法人に残ってもらうための処遇改善は必要です。
ただし、ここでも配分の合理性は必要です。
高い職員だけに集中し、現場全体の納得感を失うような配分は避けるべきです。

6. 派遣、出向、業務委託も対象になり得るが、支払先に注意
Q&Aでは、派遣労働者についても処遇改善加算の対象とすることが可能とされています。
その場合、派遣元と相談した上で、処遇改善計画書や実績報告書を作成し、処遇改善加算を原資とする派遣料等の上乗せが、派遣職員の給与に上乗せされるよう協議する必要があります。
また、在籍型の出向者、業務委託職員についても、派遣職員と同様に考えてよいとされています。
ここで大事なのは、「事業所が払ったから終わり」ではないことです。
派遣会社に上乗せして支払ったとしても、それが派遣職員本人の給与改善につながっていなければ、処遇改善加算の趣旨から外れてしまいます。
契約書、覚書、派遣元との確認書などで、本人への賃金改善に充てられることを確認しておくことが望ましいです。

7. 加算額以上の賃金改善ができないと返還リスクがある
処遇改善加算の基本は、加算額以上の賃金改善を行うことです。
Q&Aでも、実績報告において賃金改善額が処遇改善加算の加算額を下回った場合、算定要件を満たさないものとして返還対象になるとされています。
ただし、不足分を賞与等の一時金として追加的に配分することで、返還を求めない取扱いも示されています。
つまり、年度末や実績報告前に、「加算収入」と「実際の賃金改善額」を必ず確認する必要があります。
私の感覚では、処遇改善加算で一番怖いのは、計画書を出す時点ではなく、実績報告の時点です。
計画は整っていても、途中の入退職、勤務時間の変動、賞与設計、法定福利費の見込み違いなどで、最終的に不足が出ることがあります。
毎月または少なくとも四半期ごとに、加算収入と支給実績を確認しておくことをおすすめします。

8. 職員への説明は、経営者のリスク管理でもある
Q&Aでは、処遇改善加算を算定する事業者は、賃金改善の方法等について職員に周知し、職員から照会があった場合には、書面を用いるなど分かりやすく回答することとされています。
これは、単なる形式的な周知ではありません。
処遇改善加算は、職員から見ても関心が高い制度です。経営者の中には、どうしてもこの処遇改善については周知をしたがらない方もいらっしゃいますが、職員全員への周知は処遇改善加算をもらう要件になっているので、必ず周知が必要です。
「自分はいくら上がるのか」「なぜあの人と違うのか」「賞与なのか手当なのか」「毎月支給なのか」など、疑問が出やすい部分です。
経営者側が説明できない配分をしていると、不信感につながります。
逆に、配分ルール、対象者、支給方法、評価との関係を整理して説明できれば、職員にとっても納得しやすくなります。
処遇改善加算は、行政に出す書類だけでなく、職員との信頼関係を作る制度でもあります。

まとめ
今回のQ&Aで特に押さえておきたいのは、処遇改善加算の対象範囲がかなり柔軟に整理されている一方で、その分、事業所側の説明責任も重くなっているという点です。
役員であっても、実際に事業所業務を行っていれば対象になり得ます。
福祉・介護職員以外の職種も、幅広く対象になり得ます。
本部職員、派遣職員、出向者、業務委託職員についても、実態に応じて対象となる可能性があります。
一方で、最低賃金を処遇改善加算で何とか満たすという考え方には注意が必要です。
また、加算額以上の賃金改善、職員への周知、配分の合理性、実績報告での不足確認は、必ず押さえておくべきです。
処遇改善加算は、単なる加算取得の手続きではありません。
人材確保、職員定着、賃金制度、法人経営をどう設計するかという問題そのものです。
今回のQ&Aをきっかけに、自法人の処遇改善の配分方法、対象者の整理、最低賃金との関係、役員や本部職員の取扱いを、ぜひ一度確認していただければと思います。

以上、ご参考になりましたら幸いです。

最後までのお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回の内容が少しでも事業所運営に役立ちましたら幸いです。

今日も一日皆様にとって素晴らしい日となりますように。